介護業界で働く若者にインタビュー
「キツい、ツラい」はもう古い!
Z世代が介護の未来を変えていく
兵庫県神戸市:社会福祉法人 弘陵福祉会 六甲の館
介護福祉士 溝田 ラビさん(21歳)
アメリカで生まれ、幼少時に日 本へ。中学時代から母が施設長を務める高齢者施設を手伝い、中学3年の時に介護職員初任者研修(以下、初任者研修)を取得。高校卒業後に正職員として入職し、18歳で介護福祉士の資格を取得。現在はICT担当として介護ICT推進に取り組む傍ら、社会福祉士の資格取得を目指して通信制大学で勉強中。
業務に追われる介護の現実。空しかった。辞めたかった
─溝田さんが介護の仕事にふれたきっかけを教えてください。
母方の実家が高齢者施設を経営していて、幼い頃からよく遊びに行っていました。おじいちゃんやおばあちゃんと可愛がられて楽しかったのを覚えています。中学生になってから母が施設長を務める「六甲の館」で手伝いを始め、中学3年で初任者研修資格を取得しました。とはいえ当時はお小遣い欲しさの手伝い感覚で、利用者さんと一緒にレクリエーションをする程度でしたが楽しかったですね。ところが通信制高校に進学してフルタイムのパートになると状況が一変。施設では食事や排泄、入浴などの時間が決まっていて、スタッフは時間内に業務を完了しなくてはなりません。常に時間に追われ、業務をこなすことで精一杯。利用者さんと話す暇もなく1日が終わる毎日が空しく、ずっと辞めたいと思っていましたね。親に反抗して不良仲間と深夜まで遊んだり、バイクを乗り回したり、道を見失っていた時期もありました。
テクノロジーで介護が進化!ワクワクする未来が見えた
─そんな溝田さんが本気で介護に向き合うようになったのはなぜですか?
厚生労働省が 介護職の腰痛予防対策指針を定めたこともあり、当施設は20年以上前から介護負担を軽減するための機器導入に取り組んでいましたが、介護支援機器は非常に高額なのでなかなか導入が進んでいませんでした。
数年前、施設の方針でベッドや浴槽への移乗においてリフトなどの福祉機器を使う「ノーリフティングケア」を始めることに。体がしんどい、と辞めていく人が減り、入浴介助に必要な人員も半減したことで仕事に余裕ができ、利用者さんと触れ合う時間が増えました。すると利用者さんにもスタッフにも笑顔が増えて職場全体が明るくなり、中学生の頃に感じた楽しさがよみがえってきたんです。
テクノロジーで介護はこんなに変わるのか!と驚くと同時に、ますます進化していく介護の未来にワクワクしました。そして「この道で頑張ろう」と決めて、19歳で介護福祉士の資格を取得しました。
独学で開発した動画アプリで 介護する人もされる人も笑顔に
─正職員として働き始めて気づいたことはありましたか?
何もせずに座っている時間が長い人ほど認知症が進みやすく、生きる気力を失っていくことに気づきました。ある時、重度の認知症で動けないのに歩こうとしてスタッフに止められ、大声を上げていた方がいて、とっさにタブレットで赤ちゃんの動画を見せたら「かわいいねぇ」と微笑んだんです。それを見て、動画を活用すれば利用者さんの 笑顔と生きる気力を取り戻せるかもしれないと思いました。そして利用者さんたちにいろいろな動画を見てもらい、特に良い反応を示す赤ちゃんや動物などの動画のプレイリストを制作。目が見えない方には美空ひばりさんなどの音楽リストを聴いてもらい、「懐かしいね」と喜んでもらえました。 さらに自分だけでなく他のスタッフにも使ってもらえるよう、独学でプログラミングを勉強して「みんなを笑顔にするデジタルセラピーアプリ」を開発。「利用者さんに見せると穏やかになる」と好評です。こうした取り組みが評価され、介護業務のICT化を推進するICT担当に選任されました。
ICTを活用すると 介護はこんなに楽になる
─まさに「進化する介護」を実践されているのですね。ICTを活用した介護の様子を教えてください。
日勤はまず朝7時から1時間ほど朝食と排泄の介助を行います。ラジオ体操が終わると利用者さんはレクリエーションに参加したり、タブレットで動画を眺めたり、人型ロボットと一緒にカラオケを楽しんだり、自由に過ごします。最近はテーブルに映像を投影してゲームや脳トレができるプロジェクションマッピングが大人気。思い思いに楽しむ利用者さんを見守るスタッフも自然と笑顔になります。
12時から昼食と排泄の介助を行い、16時まではフリータイム。僕は新しいICTの導入に関する検討や計画などのほか、SNSの発信も担当しています。
夜勤は16時半から翌朝9時半まで。夕食と排泄の介助を行ったらすぐに就寝です。センサーとカメラで健康状態や体の動きを見守るAIシステムにより、夜間巡回は2回ほど。パソコン業務を行ったり、車椅子を自動洗浄機に入れたりしながら朝まで待機します。スタッフも利用者さんもゆったりと笑顔で過ごす様子は、たぶん多くの人が想像する介護の現場とは全く違うと思います。昨年は350人以上の視察があり、皆さん驚かれていました。
笑顔が生きる力をくれるから その人の生きがいを支えたい
─溝田さんにとって「介護の仕事のやりがい」とはなんですか?
ICTを活用することで介護する側は利用者さんとゆっくり向き合い、小さな変化に気づくことができるし、利用者さんも人と交わる喜びを味わうことができると思っています。認知症が進んで笑ったり話したりすることがほとんどない方もいますが、動画アプリを活用したり、接し方を工夫したりするうちにふと笑顔を見せてくれることがあります。そんな時は大きなやりがいと同時に、僕の方が生きる力をもらっているようにも感じます。もっと福祉の知識をつけて利用者さんの生きがいを支え、介護の進化を担っていきたいという思いから、社会福祉士を目指して通信制大学で勉強中です。
テクノロジーを使いこなして 一緒に 介護の未来を変えよう!
─若い人々の中には「介護職はキツそう」「自分には無理」と思っている方も多いかもしれません。
同世代の若者へメッセージをお願いします。
ここで働き出した時は業務だけで1日が終わっていたのに、今は1日の半分ぐらいは利用者さんとのコミュニケーションを楽しんでいます。テクノロジーを活用すれば業務が効率化され、利用者さんと豊かな時間を過ごすことができ、一人ひとりの生きがいを支えているやりがいを実感できるのです。「介護はキツい」なんて考え方はもう古い!テクノロジーでどんどん進化する、最先端の仕事なんだと多くの人に知ってほしいです。デジタルネイティブの僕たちZ世代が増えれば、介護の未来は絶対に変わります。ぜひ皆さんの力を貸してください!