子育 て後、介護職に就いた方へ
インタビュー
子育て経験が生きる介護の仕事を
50代からの人生の選択肢に
兵庫県神戸市:社会福祉法人 大慈厚生事業会 大慈智音院
施設長 坂本 和恵さん(48歳)
25歳の時、両親が運営する大慈厚生事業会に入職。32歳の時に「ケアハウス大慈」副施設長に就任し、翌年施設長に。現在は大慈厚生事業会の高齢者部門統括部長、大慈智音院 施設長を兼任。休日は筋トレやピラティス、美容院やネイル、自身が経営するエステサロンなどで自分磨きに没頭する。
結婚・出産を経て 高齢者施設の施設長に
─坂本さんが介護事業に携わるまでの経緯を教えてください。
大慈厚生事業会は祖母が昭和21年に創設した保育園から始まりました。その後母子生活支援施設や老人ホームなどを開設。両親が事業を継承し、現在は保育・児童部門と高齢者部門合わせて19施設を運営しています。
幼い頃から法人内の老人ホームでお年寄りと遊んだり、学生時代にアルバイトで高齢者施設のお手伝いをしていましたが、実は介護より保育の仕事に興味があり、大学卒業後は幼稚園教諭の道へ。しかし25歳の時、母の病気がきっかけで父に頼まれて法人の事務職を務めることになったんです。その後結婚して妊娠・出産。育休後に母子生活支援施設や学童保育の運営に携わった後、2008年に開設した「ケアハウス大慈」の副施設長に就任しました。翌年、全国社会福祉協議会の施設長講習課程を受講して施設長に就任。法人内の全施設で管理者を経験した後、2015年に開設した「大慈智音院」の施設長に就任して現在に至ります。
4児の子育てと仕事に奮闘。頼れる人やサービスはどんどん使 う!
─子育てしながら施設管理者としてキャリアを積んでいくのは、大変なことも多かったのではないでしょうか?
私、子どもが4人いるんですよ。上の3人がやんちゃ盛りの時に一番下の子が生まれたんですが、この子に重度の心臓病が判明し、育児疲れとショックで人生のどん底でした。それでも家族や周囲の人に助けてもらい、母子生活支援施設の中にある一時保育や行政のサービスなどをフル活用して乗り越えました。もちろん家事はめちゃくちゃ手抜き(笑)。完璧にしようと思ったら絶対うまくいきません。それでも毎日クタクタで、仕事が終わってお迎えや夕食、お風呂が済んで子どもたちを寝かしつけた後、テレビを観ながらカフェオレを飲むひとときが唯一の楽しみでしたね。今は上の3人が大学生、4人目が小学6年生になり、子育てが終わりつつあります。いま子育てに追われてつらい思いをしているお母さんには「頼れる人や使えるサービスはどんどん使っていいんだよ!ひとりで頑張らなくていいんだよ!」と言ってあげたいですね。
子育て経験者に活躍してほしいから子育てしやすい環境づくりを
─坂本さんの施設でも子育てをしているスタッフはいらっしゃいますか?
たくさんいますよ!当法人では子どもの急病などがあれば遠慮なく休んだり早退できたり、育休後は給与を維持し ながら時短勤務もできるので「子育てしながら働きやすい」と好評です。パートで入職して子どもが手を離れてから正社員になった方もいますが、子育てを経験してきた方は総じて優秀な方が多いです。利用者さんの身の回りの様子や細かい変化によく気がつくことが多いと思いますし、乳幼児とコミュニケーションしてきた経験があるから、認知症の利用者さんとの関係づくりも上手ですごく助かっています。
子育て終わり層にも勧めたい軽い負担で長く働ける介護の仕事
─子育てを終えてから介護職に就く方もいるのですね。
介護の仕事は体力を使うイメージがありますが、年齢や体力の面で負担はないのでしょうか。
育てを終えた方は40〜50代が中心ですが、乳児のお世話をした経験があるためか、夜勤も問題なくこなしている方がほとんど。当施設では希望によって夜勤なしのシフトに変更できますし、最近は負担を減らすICT等のテクノロジーもどんどん進化しています。夜間の身体状態や行動をセンサーで見守るシステムを活用すれば巡回の回数を減らせるし、体をこすらなくても汚れが落ちる極微細バブル発生装置を使えば入浴介助もぐんと楽になるんです。すでに導入している高齢者施設も多く、当法人も導入に向けた手続きを進めています。
介護の負担が小さくなれば、年齢を重ねても仕事を続けることが可能です。本人の努力次第でケアマネジャー や生活相談員などにキャリアチェンジし、軽い負担で長く働くこともできます。当施設にも60代で介護士として活躍しているスタッフがいますし、再雇用制度を利用すれば70歳まで働くことも可能です。介護の仕事はきついとか収入が低いとか思われがちですが、最近は政府や行政の支援によって処遇改善が進み、給与や福利厚生の面で一般企業と変わらないくらい安定した収入と生活が見込めます。50代から未経験で介護の仕事を始めても豊かなキャリアパスを描けることを知っていただき、ご自身の将来のためにぜひチャレンジしていただきたいですね。
業務の属人化を解消し みんなが働きやすい職場へ
─スタッフが働きやすい職場づくりのために取り組んでいることはありますか?
私が施設長になった時、主任やリーダーを決める段階になって求める人材が育っていないことに気づきました。どうしてだろう?と職場を俯瞰してみたら、特定の人に業務が集中していたんです。介護の仕事は日々やることが多い上に優しい人ばかりなので、 経験が長い人が率先して業務を行ってしまう。そうした「業務の属人化」が続くと人材配置のバランスが崩れ、たちまちその部署はうまくいかなくなってしまいます。「これはアカン!」と危機感を覚え、チームコーチング(※)の手法を取り入れた風土改革に着手。職場内の全スタッフが意思共有し、誰もが全ての業務をこなせる環境づくりに取り組みました。以前は「それぞれが自分の業務を精一杯やるのが正義」みたい な雰囲気があったんですけど、風土改革以後は「みんなで話し合って協力した方が結果的にうまく行く」と全員が理解し、主体的に意見を言い合って最善の方法を考え、全員で実践できる職場になりました。介護の仕事は長期休暇が取りにくいと思われがちですが、当施設では6日連続休暇の取得を推進しています。これも誰かが休む分を周りがフォローできる協力体制があってこそ実現できたことです。
※チームコーチング:メンバーのパフォーマンスを最大化し、目標を達成できる組織を築くための手法
介護はなくてはならない仕事。その誇りが笑顔の輪を広げていく
─坂本さんが考える「介護の仕事のやりがい」とはなんですか?
介護の仕事はノルマがないから周りと競争する必要がないし、チームで力を合わせて実践することが利用者さんの役に立ち、感謝の言葉もいただけます。ありきたりかもしれないけれど、人は人とつながることで幸せを感じられるものだし、感謝されることが喜びになるもの。そんな幸せや喜びを日々実感できることがやりがいになるんじゃないかな。
介護士は世の中になくてはならない仕事。いなくなったら自宅で家族が介護する他 なく、現代社会は成り立たなくなってしまいます。ほんとうにすごい仕事をしているのに、現場の人々は日々の業務に追われ、自分の存在価値を自覚していないことが多いんです。私は介護に携わる人々に「私たちの仕事は社会のレジェンド(伝説)なんだ!」と誇りを持ってほしくて、仕事の成果を仲間で分かち合って語り継ぐ「レジェンド発表会」を10年前から開催しています。自分の努力が可視化され、評価されることでスタッフは自信と誇りを持ち、笑顔で仕事に向き合えるようになりました。スタッフの笑顔は利用者さんを笑顔にし、利用者さんの笑顔はご家族を笑顔にします。笑顔の輪が地域や社会へ広がっていけば、未来はきっと明るくなるはず。一人でも多くの方がこの笑顔の輪に加わってくださることを願っています。