介 護職へ転職した方に
インタビュー
競い合うのではなく支え合う。
自分のままで誰かの役に立てる喜び
兵庫県神戸市:社会福祉法人 神戸福生会 特別養護老人ホーム長田ケアホーム
介護福祉士/社会福祉士 枝松 佳奈さん(27歳)
小学2 年からバレーボールを始め、高校では全国制覇、大学でも国体に出場。大学卒業後にフィリピンで英語を学びながらバレー指導者として活動。コロナ禍で帰国後はフィットネスジムに就職したが、将来を見据えて社会福祉士の資格を取得して介護職に。3月に介護福祉士も取得して4月から副主任に昇進。今後は青年海外協力隊の活動も視野に入れている。
看取りに関わる福祉はつらい。父の死を機にフィリピンへ留学
─枝松さんは学生時代、バレーボール選手として活躍されたそうですね。
小学生の頃はいろいろなスポーツに挑戦していましたが、中学からはバレーひと筋。高校時代には全国制覇も経験できました。大学はスポーツ推薦のお話もいただきましたが、教育学部福祉臨床学科に進学しました。理由は、高校1年の時に大叔母が孤独死したこと。大好きだった大叔母を一人で旅立たせたことが悔やまれ、何かできることはなかったかと自問する中で、福祉への関心が湧いたんです。
しかし4回生の時に父が亡くなり、人の死の重さを自分の中で整理できなくなりました。福祉の仕事は看取りに関わることも少なくありません。「福祉業界は無理だ、少し距離を置かないと気持ちが追いつかない」と思い、大学の先生に相談。すると、フィリピンでバレーボールの指導をしながら英語を学べる留学プログラムを紹介してくださったんです。これも何かの縁だと思い、大学卒業後にフィリピンへ。ところが渡航して半年後、コロナの世界的に流行で帰国を余儀なくされました。
コロナでやむなく介護職に。最初はマイナスイメージしかなかった
─コロナ禍が長引く中で将来への不安はありませんでしたか?
最初はすぐにフィリピンに戻れるだろうと楽観的に考えていて、バレー指導の体力作りを兼ねてフィットネスジムに就職しました。でも事態はなかなか収束せず、もうフィリピンには戻れないと実感。大学卒業時に社会福祉士の受験資格を取得していましたから、まずは介護職から手に職をつけ、福祉の道で生きていくのが堅実だと考えました。
正直に言うと、介護職は大変だとか給与が低いとか、マイナスイメージしかありませんでした。だからいきなり介護施設で働くのは不安で、病院の看護助手として働きながら社会福祉士の資格取得を目指し、合格した時にようやく「この世界でやっていこう」と気持ちが定まりました。
利用者さんの笑顔に救われる。私、この仕事が向いてるのかも?
─その後、働いていた病院の紹介で4年前に長田ケアホームに入職されたそうですね。
実際に働いてみていかがですか?
最初は移乗や入浴介助が難しかったのですが、何回もやっているうちに楽にできるコツがわかってきました。夜勤も生活リズムがつかめるとすぐに慣れま したし、バレーボールで培った体力も大いに役立っています。
利用者さんの状態は日によってバラバラだから、戸惑うことも落ち込むこともあるし、食事の介助は利用者さんの状態に意識を多く向けるため、常に頭がフル回転でヘトヘトに疲れてしまうこともあります。でも、名前を覚えてもらって顔見知りになると介助がスムーズに行くことがわかったし、しんどい時に利用者さんの笑顔を見ると救われる気持ちになるんです。以前は少し苦手だった排泄介助も重要な健康チェックの一環と学んだことで、「今日はしっかり出てよかった」とうれしくなったり (笑)。最近は案外この仕事が向いているんじゃないかと思っています。
介護はチームワーク。だから私は私のままでいられる
─実際に働くことで介護職へのネガティブなイメージが払拭されたんですね。
バレーボールは競争の世界で、チームの中でもレギュラー争いが当たり前。競争の世界で生きていた頃の私はいつも後悔や反省ばかりで、今思えば自己肯定感が低くギスギスしていたと思います。でもフィリピンの大らかな人々と一緒に過ごす中で、次第に「自分は自分のままでいい」と認めてあげられるようになったんです。介護職に就いてその思いがいっそう強くなりました。
介護はスタッフがみんなで助け合い、医師や看護師とも連携し合い、それぞれの知識や情報を共有しながらチームワークで利用者さんを支えます。誰かと競い合う必要はなく、私は私のままで誰かを支える存在になれ る。そんなふうに自分を肯定できるようになったことが、すごくうれしいです。友達や家族にも「顔つきが柔らかくなった」と言われるほど穏やかになりました。
介護の仕事は一生もの。充実した休日が仕事の原動力!
─介護職に転職してよかったことはありますか?
介護の仕事って日常生活で役立つことが結構多いんです。いま祖父が施設に入っているんですけど、靴を履くとか些細なこともサポートできるし、それらの経験を仕事に応用してスキルを磨くこともできます。介護の仕事は一生もの。一度手に入れた技術や資格は自分だけのものだし、階段を上がるように自分のペースでキャリアアップできます。収入も前職に比べて安定しましたし、福利厚生も手厚いですね。資格を取得すると受験費用がキャッシュバックされたり、研修に参加しやすいようシフト調整してもらえるなど、資格取得のバックアップ体制が整っており、3年で介護福祉士の資格を取るという目標も達成できました。休日は友達と遊んだり、旅行に行ったり、体を動かしてリフレッシュしたり、自宅でのんびり休息したり。バレーボールのコーチ資格も取得したので、今後は小学生のボランティアコーチもやりたいですね。オフを充実させることが仕事の原動力になると思うので、休日をとことん楽しんでいます!
大切な時間を笑顔で満たす介護で日本と世界の架け橋に
─将来の目標を聞かせてください。
利用者さんの中には、人生に残された数年間を過ごすためにこの施設に来てくださる方もいます。その大切な時間を笑顔で過ごし、「この子がおってよかった」と思ってもらえる介護を実践していきたいです。大叔母や父を亡くした時にいっぱい後悔したから、その後悔をより良い介護に生かせるように頑張ろうと思います。
近い将来、海外青年協力隊に参加したいと考えています。福祉は世界共通で不可欠なものだけど、国が違えば考え方もやり方も違うもの。日本の介護技術で途上国に貢献したり、他国の福祉を学んでみたいと思っています。「頑張っておいで」と応援してくれる職場にも、いつか学びを還元できればと願っています。
介護職の選択肢はひとつじゃない。あなたらしい働き方がきっとある
─介護業界への転職を考えている方へメッセージをお願いします。
介護業界には少人数から大規模までさまざまな施設があり、働き方もフルタイムや夜勤のみ、日勤のみなどいろいろあります。たくさんの選択肢の中から自分に合う所を見つけてください。もしもそこでうまくいかなくても「介護職は向かない」「自分はダメだ」なんて考えなくていいんです。まだまだ他に選択肢があるし、そこで得た経験は必ず次で生かせます。
最初はきついことやしんどいことがあるかもしれません。でも続けていくうちに利用者さん一人ひとりの人生や価値観がわかってきて、お話することが楽しくなります。そして「ありがとう」と言ってもらえた時の喜びは、ありのままの自分を認めて前に進む力になります。介護はチームワークだから、きついことをひとりで背負う必要はないし、困った時には周りを頼ってもいい。夢や目標が芽生えたら、研修や資格取得支援制度をどんどん利用してなりたい自分を目指せばいい。そう気づいたら、きっと仕事が楽しくなるはず。迷っている人、自分には無理だと思っている人ほど、思いきって飛び込んでみてください!