子育て後、介護職に就いた
方へインタビュー
家事や育児のスキルが武器になる。
人生経験を積んだ私たちの介護のかたち
北海道江別市:社会福祉法人 北海道友愛福祉会 静苑ホーム
※写真左から
介護職 草刈 美里さん(45歳)
2009年に静苑ホームに入職。訪問介護のパート職員を経て正職員となり、介護福祉士の資格を取得。
現在はサービス提供責任者(サ責)として訪問介護サービスや契約プランの作成にも携わっている。
家族構成:夫・長女(23歳)・長男(19歳)・愛犬
介護職 坂上 由香里さん(60歳)
2009年より他事業所で訪問介護員として働き、2019年に静苑ホームに入職。働きながら介護福祉士とケアマネジャーの資格を取り、現在はサ責を務めながら訪問介護員として現場を支えている。
家族構成:夫・長男(35歳)・長女(33歳)・次女(30歳)
介護職 野村 明美さん(55歳)
2018年に静苑ホームに入職。パート職員を経て正職員となり、介護福祉士の資格も取得。
現在は通所介護・訪問介護を兼務し、多様な介護 に携わっている。
家族構成:夫・長男(20歳)・長女(17歳)・愛犬
50代でも正職員になれる! 子育てが一段落して介護職デビュー
─介護職に興味を持ったきっ かけについて教えてください。
草刈江別に引っ越して間もない頃、自宅の近くで男性が倒れていたことがあったんです。助けを求めた近所のお宅に車椅子の方の介助に来ていたヘルパー(訪問介護員)がいて、すぐに救急要請などを行ってくれました。その姿がとても頼もしく、何もできない自分への歯がゆさもあって、ヘルパーという仕事に興味を持ったんです。当時は専業主婦でしたがすぐにヘルパー2級(介護職員初任者研修)の資格を取り、ハローワークで募集していた静苑ホームに入職しました。上の子が小学3年生、下の子が年中さんだったので、しばらく登録ヘルパーとして自宅から利用者さんのお宅へ伺う形で働いていました。事業所にもよると思いますが、柔軟なスタイルで働けたので子育て中はとても助かりました。
坂上私は結婚を機に会社を辞め、専業主婦として3人の子どもを育ててきました。結婚後も社会と関わりたくて保育園のパートや学校のPTA活動などをしていたんですが、長男が社会人になったタイミングで「私も社会人になろう!」と決心。年齢的にも雇用先が限られる中、受け入れてもらえたのが介護業界でした。
野村下の子が中学生になったタイミングで再就職したいと考えていたのですが、結婚後はスーパーのパートくらいしか仕事経験がなく、50代で正社員として働くのは厳しいかなと思っていました。そんな時に静苑ホームで働いていた友人から「働きながら資格が取れて正職員にもなれる」と聞き、思いきってチャレンジしました。
夫や子どもは強力なサポーター!働くお母さんとともに家族も成長する
─介護の仕事を始めるにあたり、ご家族はどんな反応でしたか?
坂上当時は女性が結婚すると家庭に入るのが当たり前だったので、夫は「家事や子育てはどうする」「いつ辞めるんだ」と大反対でした。でも私は「これからの時代は女 性も社会の一員として働くべきだ」と思っていたし、ふたりの娘にも身をもって教えたいと思っていたんです。子どもたちが多感な時期で葛藤もたくさんあったけど、亡くなった父が働く私を誇りに思ってくれていたので、絶対に負けないぞ!と思いながら働き続けてきました。やがて夫が仕事をリタイア。同居する義母や実家の母の在宅介護が始まると、進んでサポートしてくれるようになりました。食事の支度をしてくれたり、私の仕事にもすごく協力的なんですよ。
草刈うちは幸いにも夫が働くことに大賛成してくれました。夫の職場は出勤時間や有休の取得に融通がきくので、私の仕事中に子どもの面倒を見てくれたりしています。
野村うちの夫もデイサービスで働くと言ったら「へぇ、そうなんだ」という感じで、反対はしなかったですね。一方、反応が大きかったのは子どもたち。食事の支度や犬の散歩を自ら買って出てくれて、母親が働くことで子どもの自立心が育つこともあるのかな、と感じます。
家事や育児の経験が武器となり「介護=きつい」イメージが一変した
─介護の仕事は「きつい」「汚い」と思われることも多いですよね。不安や心配はなかったですか?
草刈仕事を始める前は、入浴介助や排泄介助などは大変そうだと思っていました。でも実際にやってみると、案外そうでもないんです。育児を通して食事のお世話やオムツ交換を経験しているし、掃除や調理も日常生活でやっているので、子育て経験がある主婦は介護の仕事になじみやすいのかもしれないですね。
野村利用者さんは年齢を重ねると体の動きや話し方がゆっくりになるので、急かさず待ってあげるのですが、それも子育てで経験してきたこと。子どもが小さい頃に話をじっくり聞いてあげたり、うまくできないことを待ってあげたりしたことを思い出します。
坂上訪問介護を始めて間もない頃、デイサービスへの送り出しの一環で初めて排泄介助を行った時のことは忘れられません。もともと私は「子どもは可愛いけど高齢者は苦手」と思っていたんです。だから最初は気が進まなかったんだけど、続けるうちに嫌だとか汚いとかよりも「きれいにして送り出してあげたい」という気持ちが大きくなって、お世話する相手が愛おしくてたまらなくなってきたんです。自分の中に芽生えた感情に驚きましたし、この仕事を続けたいと思うターニングポイントになったと思います。
草刈つらいのは移乗や体位交換などで腰痛が出やすいことかな。筋力を維持 するため、日頃からウォーキングしたり体を動かすようにしています。
野村入浴介助は暑くて汗だくになるけど、職場で保冷グッズや経口補水液を支給してもらえるので助かっています。休日に愛犬とドライブしたり、友人とランチに出かけたり、オンとオフを切り替えてストレスをためないことも大切かもしれません。
坂上おいしいものを食べてよく眠り、上手にストレス解消することは元気に長く仕事を続ける秘訣ですね。私は絵を描くのが趣味で、施設のイベントで似顔絵を描くボランティアもしているんです。仕事に加えて義母と実母の介護にも追われる毎日ですが、好きなことをする時間は大事にしたいと思っています。
誰かの役に立てる喜び、信頼関係を築く醍醐味。
長く介護に携わりたい理由がある
─介護の仕事を続ける上で、皆さんはどんなやりがいや魅力を感じているのでしょうか?
草刈利用者さんが「ありがとう、助かるわ」と喜んでくださるのがうれしいんですよね。身の回りのお世話って家族にとっては当たり前で、家では何も言ってもらえないんですけど、私がやっていることが誰かの 役に立っているんだと実感が湧いてきます。この先もずーっとずーっと、できるだけ長く介護の仕事を続けたいですね。
坂上利用者さんは人生の大先輩だから、教わることもたくさんありますよね。戦争の話を聞いて今の幸せをかみしめたり、さまざまな苦労話にもらい泣きして「自分は人にそういう思いをさせちゃいけないな」と思ったり。毎日が発見と感動の連続です。今後は将来の介護を支える若い人の育成にも力を入れつつ、家庭環境と体力が許す限りは訪問介護員として働き続けたいと思っています。
野村さまざまな利用者さんとお話するデイサービスと、マンツーマンで信頼関係を作り上げていく訪問介護、それぞれに面白さがあります。一人ひとりの性格や背景を理解し、会話を積み重ね、心を開いてくれる瞬間をつかむプロセスは、人と向き合う介護職の醍醐味。これからも利用者さんとのコミュニケーションを楽しみながら、若い世代のキャリア形成もお手伝いしていきたいですね。
ミドル世代の強みを介護に活かし社会で必要とされる喜びを実感してほしい
─子育てが一段落して再就職を考えている方に向けて、メッセージをお願いします。
草刈家事や子育ての経験を活かせるだけでなく、介護の経験が子育てに活きることもあります。私は子どもたちから「お母さんは頭ごなしに叱らず、ちゃんと考えて言葉にしてくれる」と言われるのですが、利用者さんと向き合ってこそ得られた姿勢だと思います。思いきって飛び込んでみれば、誰かに必要とされる喜びと、自分自身の成長を実感できるに違いありません。
野村利用者さんに「お世話してもらって申し訳ない」と言われることがありますが、「私もいつか誰かにお世話される日が来るから」と伝えると、安心して身を任せてくださいます。お世話するのもされるのも「順番」。「いつか自分も」と思えば、介護職を身近に感じてもらえるのではないかと思います。
坂上人に頼ってもらえる介護職は幸せな仕事。仕事のブランクがあってもそれまでの人生経験を活かせるし、ちょっと踏み込んだ話は若い人より私たちミドル世代のほうが話しやすいという利用者さんも少なくありません。社会で必要とされる幸せをともに味わう仲間が増えることを願っています。